本記事では、私・一条 蓮として
- いま国債の長期金利に何が起きているのか
- 投資家にとってのメリット・デメリット
- 投資をしていない生活者にも及ぶ影響
- これから投資家はどう付き合っていくべきか
を、できるだけ専門用語をかみ砕きながら整理していきます。
元になっているニュースの一つはこちらです:
読売新聞オンライン「長期金利、18年ぶり高水準」
1. いま何が起きているのか?数字をざっくり整理

まずは事実関係から押さえておきます。
2025年12月時点で、長期金利の代表である「新発10年国債の利回り」が1.9%台まで上昇し、2007年以来・およそ18年ぶりの高水準となっています。
■「長期金利」ってそもそも何?
専門的には、新発10年国債の利回りが、日本の「長期金利」の代表として使われます。
かみ砕いて言えば、
「日本政府が10年間お金を借りるときに、投資家にどれくらいの利息を払う必要があるか」
を表す数字です。
この金利は、次のようなものの“原価表”のような役割を果たします。
- 住宅ローンの固定金利
- 企業の長期借入(設備投資や不動産取得など)の金利
- 生命保険・年金保険の予定利率
- 株式や不動産などの理論価格を計算するときの前提金利
つまり、長期金利が上がるということは、「お金のレンタル料」がじわじわ値上がりしているということでもあります。
■なぜ今、長期金利が上がっているのか
今回の長期金利上昇には、大きく2つの背景があります。
(1)日銀の「マイナス金利解除」と追加利上げ観測
日銀は2024年3月、約8年ぶりにマイナス金利政策を終了し、短期金利をプラス圏に戻しました。
これは、長く続いた超金融緩和からの「正常化」に向けた大きな一歩でした。
さらに2025年に入り、日銀は「賃金と物価の動きを見ながら、追加の利上げも検討する」とのスタンスを明確にしています。このため市場では、
「今後は短期金利も少しずつ上がっていき、全体として金利水準はこれまでより高めになるのではないか」
と見込む投資家が増え、その期待が10年国債利回りという長期金利にも織り込まれつつあると考えられます。
(2)インフレが「0%の世界」には戻らないという前提
総務省の消費者物価指数をみると、近年の日本は
- 物価上昇率(インフレ率)が2〜3%前後
- 企業の賃上げも毎年ある程度続いている
といった状態が続いています。かつての日本のような、
「物価上昇率はほぼ0〜1%、名目金利もゼロ近辺」
という「低体温」のような世界から、「インフレと金利がそこそこある世界」へと徐々に移行している段階と言えます。
投資家側から見れば、
「インフレが続くなら、0%台の金利では資産価値が目減りしてしまう。もっと利回りが欲しい」
というニーズが強まり、その結果として長期金利の水準が引き上がっているとも言えます。
2. 長期金利上昇が「投資家」にもたらすメリット・デメリット

ここからは、投資家の視点で「良い面」と「痛い面」を整理していきます。
2-1. メリット:これから債券を買う人には「利回りの復活」
これまで日本の国債は、長い間ほぼゼロ金利でした。
- 以前:10年国債利回り 0〜0.1%台
- 現在:同 1.9%前後(記事執筆時点)
この変化は、言い換えると
「同じ日本国債という安全資産でも、もらえる利息が桁違いに増えた」
ということです。
これから、
- 円建て債券ファンド
- 個人向け国債(固定・変動)
- 社債や円建て債券ETF
などを積み立てていく投資家にとっては、
「ローリスク資産でも、そこそこの利回りを狙える時代」が戻りつつあると捉えることができます。
特に、
- 退職金運用で、株式の比率を減らしていきたい方
- 老後資金の「守りの部分」を厚くしたい方
にとっては、円建て債券をポートフォリオに組み入れる意味が、以前よりも明確になってきたと言えます。
2-2. デメリット:既存の債券・金利敏感資産には「評価損」の痛み
一方ですでに債券や金利に敏感な資産を多く持っている場合、長期金利上昇は評価損という形で表れます。
債券価格と金利には
「金利が上がると、既に発行されている債券の価格は下がる」
というシーソー関係があります。
特に、
- 残存期間の長い国債・社債
- 長期債中心で運用する債券ファンド
- 「債券の代わり」として高配当だけを頼りに買われてきた一部のREIT・ディフェンシブ株
などは、金利上昇局面で価格調整の圧力を受けやすい資産です。
すでに評価が大きく動いている方は、「一気に売る・一気に買う」ではなく、今後の金利動向を見ながら時間分散で調整していく発想が重要になってきます。
2-3. 株式市場:グロース株には逆風、金融株には追い風
長期金利の上昇は、株式市場にも影響を与えます。企業価値の理論計算では、
「将来の利益」→「現在の価値」に割り引く
というプロセスがあり、その割引率のベースになるのが長期金利(無リスク金利)です。
そのため一般的には、
- 将来の成長ストーリーに期待して買われているグロース株
→ 割引率上昇により、理論株価は下押しされやすい - 銀行株・保険株などの金融株
→ 金利上昇で利ざや拡大が期待され、収益改善要因となりやすい
といった構図が生まれます。
もちろん、個別銘柄はビジネスモデルや業績次第ですが、「高成長ストーリー株」から「安定したキャッシュフロー・配当株」へ、投資家の目線が徐々にシフトしやすい環境と言えます。
3. 一条 蓮が考える「投資家の付き合い方」3つのポイント

では、こうした環境変化とどう向き合えばよいのでしょうか。
一条 蓮として、長期投資家目線の3つのポイントをお伝えします。
3-1. 「無リスク金利の復活」を前提にリターン目標を組み立てる
これまでの日本は、
「国債は0%だから、増やしたいなら株に行くしかない」
という極端な構図になりがちでした。
しかし今後は、
- 国債利回り:1〜2%
- 株式やREIT:その上乗せ分を狙う資産
というように、
「株式の期待リターン − 国債利回り(=無リスク金利)」
を意識することが重要になります。
具体的には、
- 「自分は年間どれくらいのリターンを目指したいのか」
- 「そのうち安全資産から何%、リスク資産から何%を期待するのか」
をざっくり数字でイメージしてみることで、「なんとなく全部株」から一歩進んだポートフォリオ設計ができるようになります。
3-2. 債券比率を「ゼロから一歩進める」ことを検討する
長期金利がほぼゼロだった時期は
- 「債券を持ってもほとんど増えない」
- 「株式インデックスだけでいいのでは」
という考え方にも一定の合理性がありました。
しかし、安全資産で1〜2%が狙える世界では、
- 年齢が上がるほど
- 目標時期(教育費・老後など)が近づくほど
「債券をポートフォリオに組み入れる意味」が以前よりも大きくなります。
ごく一般的なイメージとしては、
- 20〜40代:株式70〜80%、債券・現金20〜30%
- 40〜60代:株式50〜60%、債券・現金40〜50%
といったように、ライフステージに応じて少しずつ債券比率を高めていく考え方が現実的です。
(あくまで一般論であり、個々の状況によって最適解は異なります)。
3-3. 金利の「上がりきるタイミング」を当てに行かない
よくある誤解が、
「金利がピークになってから債券を買うのが一番有利なのでは?」
という発想です。理屈としてはその通りなのですが、
- 日銀の政策判断
- 世界的な金利動向・景気の山谷
- 為替の動き
などが複雑に絡み合うため、「どこが天井か」をピンポイントで当てるのはプロでも極めて難しいのが現実です。
そのため私は、
- 一度に大きく動かず、複数回に分けて債券を買い増す
- 一定のルールに沿って、時間分散でポートフォリオを組み替える
といった「時間を味方につける戦い方」をおすすめします。
金利のピークを当てにいくゲームではなく、「金利がある時代」にふさわしいポートフォリオに、ゆっくり着替えていく。
そのくらいの距離感が、長期投資家にはちょうど良いと考えています。
4. 投資をしていない生活者にも来る影響:ローンと預金の“立場逆転”

「自分は投資なんてしていないから関係ない」と感じる方ほど、実は長期金利の影響を毎日少しずつ受けることになります。
4-1. 住宅ローン:固定金利はじわじわ上昇
長期金利(10年国債利回り)は、住宅ローンの固定金利の“設計図”のような存在です。
そのため、長期金利が上がると、新規の固定型住宅ローン金利は上がりやすくなります。
すでに超低金利期に借りた方と、これから借りる方とでは、同じ金額・同じ期間でも総返済額に差が出やすい環境になりつつあります。
変動金利は主に短期金利(政策金利)に連動しますが、長期金利の上昇は、
「いずれ短期金利も上がるかもしれない」というシグナル
としても受け取られます。
すぐに返済額が大きく跳ね上がるわけではないものの、
「今後、返済額が増える可能性も織り込んだ家計管理」がこれまで以上に大切になってきます。
4-2. 預金・保険・年金:時間差で“じわっとプラス”
一方で、「お金を貸す側」には少しずつ明るい変化も出てきます。
- 銀行預金
すぐに大きく上がるわけではありませんが、超低金利から徐々に、
「利息を意識できる世界」に近づいていく可能性があります。 - 生命保険・個人年金
保険会社が運用できる利回りが上がることで、将来の商品設計(予定利率)には
改善の余地が生まれます。 - 企業年金・公的年金
長期の債券利回りがしっかりしてくることは、
「長期の年金を支える運用」という意味で、むしろ健全化につながる側面もあります。
ざっくり言えば、
ローンなど「お金を借りる人」には逆風、預金や債券など「お金を貸す人」には追い風
という力関係が、少しずつ強まってきているのです。
5. 日本経済全体への影響:正常化と負担増の両面

5-1. プラス面:金利がある“普通の経済”への回帰
長く続いた超低金利・マイナス金利政策は、
- 企業や政府にとっては「極端に借りやすい環境」
- 家計にとっては「預金が増えにくい環境」
を生み出してきました。
日銀がマイナス金利解除に踏み切った背景には、
「賃金と物価の好循環が見え始め、2%程度の物価目標達成が視野に入ってきた」
という判断があります。
これは、
「物価も賃金もある程度上がり、そのうえで金利もつく“普通の経済”に近づいている」
ということでもあります。
5-2. マイナス面:国の利払い負担と、借金依存ビジネスのリスク
一方で、長期金利上昇の「負の側面」も無視できません。
- 日本政府の利払い負担
多額の国債残高を抱える日本にとって、新発国債の金利上昇は、将来の利払い費(国の金利コスト)の増加要因になります。 - 借金依存のビジネスモデル
不動産・建設業、レバレッジの大きい企業、借入に頼って高配当を維持してきたビジネスなどは、資金調達コストの上昇による利益圧迫に注意が必要です。
金利がゆっくり正常化していく分にはプラスも多いですが、短期間で急激に上昇すると「ショック」になり得るというリスクも抱えています。
このバランスをどうコントロールするかが、今後の日本経済と金融政策の大きなテーマです。
6. 今日からできる「付き合い方」チェックリスト

最後に、「じゃあ自分は何をすればいいの?」という視点で、今日からできるチェックポイントをまとめます。
6-1. 住宅ローン・借入がある人
- 変動金利で借りている場合
・返済予定表を見直し、金利が+0.5〜1.0%上がった場合の返済額をシミュレーションする
・家計に余裕があれば、将来の繰り上げ返済や借り換えの選択肢も視野に入れておく - 新規借入・借り換えを検討している場合
・固定/変動を「目先の金利差」だけで決めず、
「住む予定の期間」「収入の安定性」「家計の余裕」とセットで考える
6-2. これから本格的に資産形成をする人
- 新NISA・iDeCoの活用
・オール株式一択ではなく、債券やバランス型ファンドも候補に入れてみる
・「安全資産で1〜2%+リスク資産で上乗せ」という発想でポートフォリオを考える - 目標リターンの見直し
・「年◯%増やしたい」という目標を、国債利回りとセットで考えることで、
無理のないリスクの取り方をイメージしやすくなります。
6-3. すでに運用をしている人
- ポートフォリオの点検
・株式比率が極端に高くなっていないか
・長期債の割合が大きすぎて、金利上昇に弱くなっていないか - 対応は「ゆっくり・分散」
・一度に大きく変えず、数回に分けてリバランスする
・定期的に見直すルールを決めて、感情に振り回されないようにする
7. おわりに:日銀の一言は、あなたの毎日の選択とつながっている

長期金利が18年ぶりの水準に上昇した――。
一見すると、どこか遠くの金融市場のニュースのように感じるかもしれません。
けれど実際には、
- 住宅ローンの返済額
- 預金にどれくらい利息がつくか
- 会社の設備投資や賃上げの余力
- 老後に向けて積み立てたお金の増え方
などを通じて、あなたの毎日の選択と静かにつながっている数字です。
私は数字を見るときにいつも、
「この1%の変化は、コンビニのコーヒーや、家族との外食にどうつながるだろう」
と、生活者の目線に引き戻すようにしています。
今回の長期金利上昇も、「怖がるニュース」ではなく、
- 家計の守り方を見直すきっかけ
- 資産形成の設計図をアップデートするチャンス
として、うまく味方につけていただけたらうれしいです。
参考情報・出典(例)
- 読売新聞オンライン「長期金利、18年ぶり高水準」2025年12月5日
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20251205-GYT1T00126/
- 日本銀行「金融政策決定会合・主な意見」等(マイナス金利解除・正常化に関する説明)
日銀公表資料 - 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」
物価上昇率・コアCPIの推移
※本記事は、公開情報・政府統計・報道等をもとに一条 蓮の個人的見解をまとめたものであり、特定の金融商品の購入・売却や投資行動を勧誘・推奨するものではありません。実際の投資判断・ローンの利用・保険の加入等は、ご自身の資産状況・ライフプラン・リスク許容度に応じて、必要に応じて専門家へ相談のうえ行ってください。



